2009年 06月 01日
第七感? |
このところ、倒木で家が破損しただの、交通事故だの、まるで新聞の地方版の記者にでもなったかのような話はかり続いたので、今日は一転して医学の話をすることにする。
人間の感覚でよく知られているものは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の、五感である。これらの五感については、それぞれの感覚受容体を解剖学的に確認することができる。
そのほかに所謂第六感というものがしばしば取り沙汰される。この第六感はとりわけ女性においてその発達が著しいということは、成人男子どなたでも認めるところである。帰宅した亭主のワイシャツからいつもと違う香水の香りがした。これを妻がかぎ分けるのは嗅覚、つまり五感の内の一つだ。しかしその後、ありとあらゆる言訳をも受け入れず、亭主が浮気をしていると感じるのが第六感である。この第六感については、その感覚受容体は存在しない。謂わば超能力や超常現象の範疇に入るものである。
これから話をする感覚は、関節固有知覚。これは五感の中にも六感の中にも含まれていない。それどころか、これは通常ほとんど語られることのないものである。前もって明らかにしておくが、これは私の造語ではない。きちんとした医学用語である。私も稀に、真面目な話をすることがあるのだ。
関節固有知覚とは、関節の位置を認識する感覚のことだ。今、自分の関節がどのくらい曲がっているか、どのような方向に力がかかっているか、などを判断する感覚だ。驚く無かれ、これがなかなかに鋭敏な感覚なのである。
先日、便器に腰掛けようとしたときの話だ。アメリカでは便器と言えば、もちろん洋式である。したがって、今回はまたがる話ではなく、腰掛ける話である。
便器に腰掛けるためには、もちろん関節運動が伴う。股関節、膝関節、足関節などが微妙に働きあって便座に腰掛けることにより、安定した排便の姿勢を作ることが出来る。そして、それらの関節がどれくらいの角度で曲がっていて、どちらの方向に体重がかかっているかは、関節固有知覚を通して正確に把握することができる。
私が我が家の便器に座るためには、ふくらはぎと太腿で作る膝の角度を約98度の位置に曲げなくてはならない。この動作はほとんど毎日、あるいは少なくとも隔日で実行しているので、体がしっかりと覚えている。ごく稀には3日に一回のときもあるが、それでも私の関節はこの98度を絶対に忘れたりはしない。
ところが先日、思いもよらないことが起きた。私が膝関節をいつものように98度の位置まで曲げても、臀部に便座を感じない。そして93度に差し掛かってもまだ、臀部が不安定に宙に浮いたままである。この98度から93度までを時間にすると、十分の一秒、あるいは百分の一秒、と言ったオリンピック競技のような単位であったに違いない。いつもよりも5度も多く膝関節を折り曲げているにもかかわらず、まだ着座できないでいる。大変な異常事態である。
「これはおかしい」と思った93度のところで、私の重い臀部をピタリと止めることはもはや不可能である。勢いに任せるまま91度のところまでたどり着き、ようやく私の臀部はとてつもなく冷たい何かの上で支えられて止まった。
その瞬間、五感の内の一つである私の臀部の触覚が「これは便座ではない」と知覚した。便座を降ろすのを忘れたために、冷たい便器の淵に直接座りこんでしまったのだ。便座の厚みの有無で生じるわずかな角度の違いを、私の関節固有知覚が見破ったのだ。しかし悲しいかな、時既に遅し。加速の付いた臀部は、もう誰にも止めることは出来ない。
かくのごとく、関節固有感覚とは通常語られることのない感覚であるが、大変に重要で鋭敏なものなのである。糖尿病などではこの関節固有知覚が障害を受けることがある。
この一件以来、飛び上がるほど冷たい便器に不用意に座り込んでしまう不慮の事態を未然に防ぐために、いつ何時でも下降しつつある臀部をピッシッと止められるように足腰を鍛えなくてはならない必要を感じている。
by goodsurgeon24hrs
| 2009-06-01 16:32
| その他
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Comments(8)
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candypop-m at 2009-06-04 10:10
えっ?何・・何!と読みながら 現場の映像を想像してました
私もありますが 確かにこういうハプニングは勢いは止められませんね
焦るし驚きの雄たけび上げちゃいます ww
>関節固有知覚
知りませんでしたね
何気ない動作にも神経の伝達があるということなのですね
Drからのお言葉肝に銘じて
スクワットして足腰鍛えないとですね。。。。違うって(笑)
私もありますが 確かにこういうハプニングは勢いは止められませんね
焦るし驚きの雄たけび上げちゃいます ww
>関節固有知覚
知りませんでしたね
何気ない動作にも神経の伝達があるということなのですね
Drからのお言葉肝に銘じて
スクワットして足腰鍛えないとですね。。。。違うって(笑)
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surgeon24hrs
at 2009-06-05 00:44
x
makiさん、おはようございます。
いやーまったく、くだらない話にコメントいただいちゃって、恐縮です。
最近は用を足す前に、しっかりと便座の位置を確認しています。夏場はまだ良いとしても、冬場にこういうことが起きて欲しくありません。今から数ヶ月かけて、確認を習慣にしようかと......
電車みたいに、指差し確認がいいかな? 「便座、よし!」なんちゃって。
いやーまったく、くだらない話にコメントいただいちゃって、恐縮です。
最近は用を足す前に、しっかりと便座の位置を確認しています。夏場はまだ良いとしても、冬場にこういうことが起きて欲しくありません。今から数ヶ月かけて、確認を習慣にしようかと......
電車みたいに、指差し確認がいいかな? 「便座、よし!」なんちゃって。
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kusobaes at 2009-06-05 16:37
すごいです!!
関節にそんな能力があっただなんて。人体の神秘ですね。
ボクもよくあります。
特に寝ぼけていった夜明け前のトイレで事件は起きます。
一人、トイレで “トムとジェリー”のトムが痛めつけられた時のような
叫びをあげてカミさんにしかられます。
ボクの場合は関節能力より脳の能力を鍛え直さないといけません。
なんべんやっても懲りません。(苦笑)
matu
関節にそんな能力があっただなんて。人体の神秘ですね。
ボクもよくあります。
特に寝ぼけていった夜明け前のトイレで事件は起きます。
一人、トイレで “トムとジェリー”のトムが痛めつけられた時のような
叫びをあげてカミさんにしかられます。
ボクの場合は関節能力より脳の能力を鍛え直さないといけません。
なんべんやっても懲りません。(苦笑)
matu
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petites_nouilles at 2009-06-06 03:25
机をたたきながら笑ってしまいました。。。
かくいう私も便座をおろさずにうっかり座ってしまう不注意な女子です。
あの「がくん」と下がるスピードと感覚といったらジェットコースターのそれに匹敵するものがありますよね!?
あの感覚といったら。。。思い出しても尻がヒヤリとします。
かくいう私も便座をおろさずにうっかり座ってしまう不注意な女子です。
あの「がくん」と下がるスピードと感覚といったらジェットコースターのそれに匹敵するものがありますよね!?
あの感覚といったら。。。思い出しても尻がヒヤリとします。
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surgeon24hrs
at 2009-06-08 05:25
x
matuさん、こんにちは。
レスが遅れてスミマセン。
寝ぼけて行ったトイレで思い出したことがあります。
私の知人が休暇で旅行に出かけたときに、貸し別荘を一週間借りたそうです。夜に寝ぼけながらトイレに行った彼女は、閉まっていたドアに顔面から衝突。なんと鼻の骨を折り、手術となりました。
そこで私が思ったことは、日本人だったら絶対に額をぶつけるのであって、鼻を骨が折れるほどぶつけることはありえない、と言うこと。やっぱり顔の構造がちがうのかな?
失礼、横道に外れちゃった。
レスが遅れてスミマセン。
寝ぼけて行ったトイレで思い出したことがあります。
私の知人が休暇で旅行に出かけたときに、貸し別荘を一週間借りたそうです。夜に寝ぼけながらトイレに行った彼女は、閉まっていたドアに顔面から衝突。なんと鼻の骨を折り、手術となりました。
そこで私が思ったことは、日本人だったら絶対に額をぶつけるのであって、鼻を骨が折れるほどぶつけることはありえない、と言うこと。やっぱり顔の構造がちがうのかな?
失礼、横道に外れちゃった。
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surgeon24hrs
at 2009-06-08 05:28
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petites_nouillesさん、こんにちは。
レスが遅れました。失礼!!
そうそう、ジェットコースターの感じ! ひゅーん、ガクン、ひやっ....ヒェー!って感じかな オシリに何故脂肪のパッドがあるのかやっと分かりました :-)
レスが遅れました。失礼!!
そうそう、ジェットコースターの感じ! ひゅーん、ガクン、ひやっ....ヒェー!って感じかな オシリに何故脂肪のパッドがあるのかやっと分かりました :-)
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papavolvol
at 2009-06-11 14:17
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医学的なお話を読ませていただいて、アカデミックでない話で恐縮ですが、私は、娘がアメリカから日本に転校した初日の事を思い出しました。
トイレの使い方が分からなかったと、泣いて帰ってきたのです。新しい環境に緊張して、初対面の先生やお友達に、トイレの使い方を聞くわけにも行かなかったのでしょうか?
その娘も、今では、アメリカのトイレにはウォシュレットが付いていないと、不満を言うようになりました。
トイレの使い方が分からなかったと、泣いて帰ってきたのです。新しい環境に緊張して、初対面の先生やお友達に、トイレの使い方を聞くわけにも行かなかったのでしょうか?
その娘も、今では、アメリカのトイレにはウォシュレットが付いていないと、不満を言うようになりました。
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surgeon24hrs
at 2009-06-11 21:33
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papavolvol さん、おはようございます。
うーん、確かにうロシュレットはあまり見かけませんね。テレビなどでは時々「High-tech Japanese toilet」などと言って紹介されてるのですが...なかなかほんものは見ません。かく言う我が家にも、ついていません。
私が聞いたはなしでは、西洋人が日本に来たときに和式トイレの使い方が分からなかった。増す最初に、座るのではなく屈むのだということを発見するまでに時間がかかった。その後も、一体どっちを向いて屈めばよいのか分からない...。
トイレで文化人類学なんて、いいかも!
うーん、確かにうロシュレットはあまり見かけませんね。テレビなどでは時々「High-tech Japanese toilet」などと言って紹介されてるのですが...なかなかほんものは見ません。かく言う我が家にも、ついていません。
私が聞いたはなしでは、西洋人が日本に来たときに和式トイレの使い方が分からなかった。増す最初に、座るのではなく屈むのだということを発見するまでに時間がかかった。その後も、一体どっちを向いて屈めばよいのか分からない...。
トイレで文化人類学なんて、いいかも!