2008年 02月 02日
ベッドサイドマナー |
まず最初に断っておく。ベッドサイドマナーと聞いて、誤解をしないで欲しい。これは「いかにして床上手となるか」、といった類の話ではない。
ベッドサイドマナーとは、入院患者の病室における医師の態度のことである。洋の東西を問わず、医師が患者の話を聞かない、と言う苦情は多い。話を聞いてくれない、というだけではもちろん医療過誤にはならない。しかしこういう小さい苦情が積もり積もると、患者や家族対医師の関係は悪化する。訴訟の多いアメリカではなおさら要注意である。
私がまだオハイオ州で研修医をしていたころ、ベッドサイドマナーに関する講義があった。講師は外部の病院コンサルタント。内容は、「患者の話を聞くことがいかに大切か」ではない。「いかにして医師が患者の話を聞いていると言うことを患者に印象付けるか」「いかにしてあなたのために時間を費やしてますよということを患者にアピールするか」、だった。これが大変興味深く、今でも私のアメリカでの仕事に役立っている。日本の感覚とはだいぶ異なるので、是非紹介したい。
基本は椅子に座って話をすること。椅子は患者の近く、かつ入り口から遠いところに引き寄せる。入り口近くの椅子で話をすると、早く済ませて部屋を出たいと思わせてしまうからだ。椅子が複数あるときには、一番大きく、背もたれ肘掛のある椅子を選ぶ。椅子には深く腰掛け、背もたれに大きく身をまかせる。つまり、少しふんぞり返るような体勢にする。上半身は心持ち左右どちらかに傾ける。肘掛に肘を立てて頬杖などすればなお良し。足は必ず組むこと。これは、忘れてはならない。
さて、病室に椅子がなければどうするか。基本はやはり座ることである。どこぞの国の若者が電車の中やコンビニの前で座り込んでいるように、病室の床に座れと言うのではない。患者のベッドの上に座るのだ。患者の足が邪魔で座れそうもなければ、患者に足をずらして医師が座るためのスペースを作らせる。ここでも忘れてならないのは、座った後は足を組むこと。
別の状況を想定しよう。家族や見舞い客たちが患者のベッドにすでに座っている場合はどうするか。この場合は、どうしようもない。基本の、座る、と言うことはあきらめて立ち話とせざるを得ない。そしてここでもまた、小技を使う。立ち話はなるべく患者の近く、かつなるべく部屋の奥に入ってする。間違ってもドア口で立ち話と言うようようなことは、あってはならない。ドア口で話をすると、早く済ませて次の回診に移りたい、と思われてしまうからだ。立つときの姿勢にもコツがいる。決して直立で話しをしてはいけない。壁にもたれかかるのだ。そうすることで、医者が立ちっぱなしであってもリラックスして患者の話を聞いている、と言うことを示せるからだ。
こうして見ると、アメリカではお行儀は悪ければ悪いほど好ましい、と言うことに要約される。もともと行儀の悪い私などは、こちらではベッドサイドマナーの優等生である。
ベッドサイドマナーとは、入院患者の病室における医師の態度のことである。洋の東西を問わず、医師が患者の話を聞かない、と言う苦情は多い。話を聞いてくれない、というだけではもちろん医療過誤にはならない。しかしこういう小さい苦情が積もり積もると、患者や家族対医師の関係は悪化する。訴訟の多いアメリカではなおさら要注意である。
私がまだオハイオ州で研修医をしていたころ、ベッドサイドマナーに関する講義があった。講師は外部の病院コンサルタント。内容は、「患者の話を聞くことがいかに大切か」ではない。「いかにして医師が患者の話を聞いていると言うことを患者に印象付けるか」「いかにしてあなたのために時間を費やしてますよということを患者にアピールするか」、だった。これが大変興味深く、今でも私のアメリカでの仕事に役立っている。日本の感覚とはだいぶ異なるので、是非紹介したい。
基本は椅子に座って話をすること。椅子は患者の近く、かつ入り口から遠いところに引き寄せる。入り口近くの椅子で話をすると、早く済ませて部屋を出たいと思わせてしまうからだ。椅子が複数あるときには、一番大きく、背もたれ肘掛のある椅子を選ぶ。椅子には深く腰掛け、背もたれに大きく身をまかせる。つまり、少しふんぞり返るような体勢にする。上半身は心持ち左右どちらかに傾ける。肘掛に肘を立てて頬杖などすればなお良し。足は必ず組むこと。これは、忘れてはならない。
さて、病室に椅子がなければどうするか。基本はやはり座ることである。どこぞの国の若者が電車の中やコンビニの前で座り込んでいるように、病室の床に座れと言うのではない。患者のベッドの上に座るのだ。患者の足が邪魔で座れそうもなければ、患者に足をずらして医師が座るためのスペースを作らせる。ここでも忘れてならないのは、座った後は足を組むこと。
別の状況を想定しよう。家族や見舞い客たちが患者のベッドにすでに座っている場合はどうするか。この場合は、どうしようもない。基本の、座る、と言うことはあきらめて立ち話とせざるを得ない。そしてここでもまた、小技を使う。立ち話はなるべく患者の近く、かつなるべく部屋の奥に入ってする。間違ってもドア口で立ち話と言うようようなことは、あってはならない。ドア口で話をすると、早く済ませて次の回診に移りたい、と思われてしまうからだ。立つときの姿勢にもコツがいる。決して直立で話しをしてはいけない。壁にもたれかかるのだ。そうすることで、医者が立ちっぱなしであってもリラックスして患者の話を聞いている、と言うことを示せるからだ。
こうして見ると、アメリカではお行儀は悪ければ悪いほど好ましい、と言うことに要約される。もともと行儀の悪い私などは、こちらではベッドサイドマナーの優等生である。
by goodsurgeon24hrs
| 2008-02-02 09:56
| 仕事
|
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Comments(4)
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すみれ
at 2012-09-09 08:32
x
surgeon24hrsさん おはようございます。
私のぼやきへの、これまた的確な・・・。
訪問介護を父がどこも悪くないが、気休めというか、心のケアとしてプランをたててもらいましたが、おかげで、この訓練ができている看護師とヘルパーなのか、いい結果が生まれています。
お世話になっている病院系列のケアシステムは、この点が行き届いていて、嬉しいことです。
どこに、何に選択基準をおくか?
父は、これで助けられています。
何度見ても、あの傑作最高!
心にもスマイルを忘れずにいればこその一枚、goodです。
私のぼやきへの、これまた的確な・・・。
訪問介護を父がどこも悪くないが、気休めというか、心のケアとしてプランをたててもらいましたが、おかげで、この訓練ができている看護師とヘルパーなのか、いい結果が生まれています。
お世話になっている病院系列のケアシステムは、この点が行き届いていて、嬉しいことです。
どこに、何に選択基準をおくか?
父は、これで助けられています。
何度見ても、あの傑作最高!
心にもスマイルを忘れずにいればこその一枚、goodです。
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surgeon24hrs
at 2012-09-09 10:16
x
すみれさん、こんばんは。
いやはや、こんな古い記事に遡ってまでコメントを頂いちゃって、大変恐縮しております。
↑に書いたようなことを最初は「技術」として学ぶわけですが、この技術を使ううちに気が付くと上辺の技術ではなくいつの間にか本当に真剣に長いあいだ患者なり家族なりと話をする、という良い状況になっていました。講師はそのようなことは一切言いませんでしたが、きっと「技術」を教えることでそれに付随する結果は折込み済みだったのだと思います。そう思うと、あれは素晴らしい講義だったと思います。
このように研修医にベッドサイドマナーの教育をするというのは、アメリカでもそれほど多いことではありません。その様な教育を受けられる機会があったことは、本当にありがたいことだったと、いまでも思っています。
いやはや、こんな古い記事に遡ってまでコメントを頂いちゃって、大変恐縮しております。
↑に書いたようなことを最初は「技術」として学ぶわけですが、この技術を使ううちに気が付くと上辺の技術ではなくいつの間にか本当に真剣に長いあいだ患者なり家族なりと話をする、という良い状況になっていました。講師はそのようなことは一切言いませんでしたが、きっと「技術」を教えることでそれに付随する結果は折込み済みだったのだと思います。そう思うと、あれは素晴らしい講義だったと思います。
このように研修医にベッドサイドマナーの教育をするというのは、アメリカでもそれほど多いことではありません。その様な教育を受けられる機会があったことは、本当にありがたいことだったと、いまでも思っています。
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kurashiki-keiko at 2014-08-17 22:51
なるほど。私は今民生委員ですが、相手の方のお話を聞くときにも応用できそうな話ですね。心から寄り添うこと、少なくとも最初は形からでもそんなふうに見せる事が相手の信頼を得ることと思います。
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sugeon24hrs
at 2014-08-18 08:47
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kurashiki-keiko さん、こんばんは。こんなに古い記事までさかのぼっていただいて、恐縮しております。
あのときの講習は今でも大変に役立っております。そのせいか、患者さんやご家族から私のベッドサイドマナーが非常に良いという評価を頂いております。
民生委員、大変でしょうね。頭が下がります。
日本とアメリカの礼儀や価値観が違うので、私の書いたことがそのまま日本でも有用になるかは微妙ですが、それなりの日本風味付けをして活用いだだければと思います。 : )
あのときの講習は今でも大変に役立っております。そのせいか、患者さんやご家族から私のベッドサイドマナーが非常に良いという評価を頂いております。
民生委員、大変でしょうね。頭が下がります。
日本とアメリカの礼儀や価値観が違うので、私の書いたことがそのまま日本でも有用になるかは微妙ですが、それなりの日本風味付けをして活用いだだければと思います。 : )